股関節の仕組み
股関節とは両脚の付け根の部分にあり、太ももの骨である大腿骨と骨盤がつながる関節です。
骨盤にあるお椀のような形をした寛骨臼(かんこつきゅう)に、大腿骨頭という球状の骨がはまり込むような形になっています。
寛骨臼と骨頭の間には軟骨と呼ばれる組織があります。
軟骨は弾力があり、骨が軟骨に覆われていることで関節に伝わるさまざまな衝撃を和らげる役目をしたり、関節が動くときになめらかな動作ができるようになっています。さらにその外側には関節包(かんせつほう)という膜と中臀筋という筋肉でしっかり補強されています。
加齢などが原因で軟骨がすり減ってしまうと、股関節に痛みが出るようになります。
その痛みにより、関節の可動域が狭くなっていくと、日常生活が難しくなってしまう場合があります。
股関節の痛みの原因
股関節の痛みの原因は加齢や体重増加による軟骨がすり減りにより起こります。また、膝関節に疾患がある場合、年齢を重ねるとともに膝だけでなく股関節にも痛みを引き起こす可能性が高くなります。日常生活に支障をきたすほど症状が進行した場合は、人工関節を入れるための手術が必要になる場合もあります。
股関節に現れる症状
ひとくちに「股関節の痛み」といっても、人によって出る症状はさまざまです。
股関節周りに違和感がある程度の人もいれば、あまりにも痛くて、しゃがんだり、靴下を履くことができない方もいます。
痛みの出方も片側だけに出る場合もあれば、股関節が外れるかのような痛みが両側に出る方もいます。
その方の股関節がどのような状態にあるかによって、痛みの出方は変わってきます。
そして、その人に合った治療法もおのずと違ってきます。股関節の痛みを取り去ることは、心身の健康にもつながる大切な治療です。
股関節の痛みの主な症状
- 左右の脚の長さが異なる
- 階段で昇り降りするときに痛む
- 歩き出すときや動き出すときに痛む
- じっとしていても痛い
- 股関節の曲げ伸ばしがしづらい、股関節の動く範囲が狭くなった
- 股関節に痛みや違和感がある
- お尻や太もも、膝にも痛みがある
- 自分で靴下がはけない、足の爪が切れない
股関節の病気
股関節の病気は外傷や感染症などが原因で炎症を起こすこともありますが、怪我などで骨と骨とをつなぐ関節包を痛めたために炎症が起きたりします。
また、加齢とともに股関節にある軟骨や滑膜がすり減り、股関節が変形することが原因で、股関節の曲げ伸ばしに痛みが伴い、歩行が困難になったり、眠れなくなるほど痛みがひどくなる場合もあります。
次は、股関節の病気について解説します。
股関節の主な病名
- 変形性股関節症
- 大腿骨頭壊死症
- 大腿骨頸部骨折
- 臼蓋形成不全症
- 発育性股関節形成不全
治療方法
股関節疾患の治療方法は主に、保存的療法と手術療法に分けられます。疾患の進行度によって、その人に合う治療法も変わります。患部の状態がそれほど悪くなければ、保存的療法が適応されます。ストレッチやウォーキングなどを取り入れた運動療法を行ったり、赤外線を照射して患部を温める温熱療法や、ヒアルロン酸を直接股関節に注射して痛みを緩和する治療法もあります。さらに、定期的にブロック注射を打つことで、一時的に痛みを取り去る方法もよく知られています。しかし、痛みの度合いや股関節の状態によっては、人工関節置換術を行うことでその後の生活の質が向上し、充実した生活を送ることもできます。痛みがある場合は、自分の状態を知るために医師の診察を受け、CT,MRIなどの精密検査を受けることが治療の第一歩となります。
股関節の主な治療方法
股関節の主な治療方法
- 薬物療法(痛み止めの飲み薬、座薬、湿布、塗り薬など)
- 生活指導(体重コントロールや杖の使用など)
- 運動療法(筋力訓練やストレッチング、水中運動、リハビリなど)
- 温熱療法(股関節の血行をよくし、筋肉をほぐして痛みをやわらげる)
- 注射治療(ブロック注射など)
- 再生医療(ASP注射、PRP注射)
- 手術療法(人工股関節置換術など)
股関節の手術
股関節の手術にはいくつかの方法があり、術式によっては入院期間も短く、10日から2週間ほどで退院できる場合もあります。高齢者の場合は、術後早期に日常生活が送れるように手術前から運動療法で適度な筋力を付けたりします。人工股関節を入れる場合には術後の経過にもよりますが、退院後3か月程度はリハビリのために通院する必要があります。また、医師によって術式が異なり、術後の経過に影響する場合もあります。自分の担当医がどのような手術を得意としているのか事前に知っておくと良いでしょう。
また、傷口が小さく済む「最小侵襲手術(MIS:Minimally invasive surgery)」は術中の体への負担を減らすほか、術後の回復も早いことから、近年採用する医師が増えています。
人工股関節置換術の術式
- 後方アプローチ:大腿部の後ろ側から切開(PL)
- 側方アプローチ:真横から切開
- 仰臥位前外側アプローチ:大腿筋膜張筋と中殿筋の間から手術を行う(ALS,OCM)
- 前方アプローチ:太ももの前方から切開(DAA)
人工股関節手術の術後の生活
痛みがなくなり安定した歩行が可能になる股関節の手術ですが、術後の生活はどう変わるのでしょうか。人工股関節置換術の手術後はなるべく早い段階から、ご自身の脚で歩いてもらうことが理想です。これは、体力の維持と合併症の防止に役立つためです。また、人工股関節置換術は切開する傷が小さいほうが術後の痛みが少なく、早期にリハビリが可能になります。
人工股関節置換術の術後は、歩行器などを利用し早ければ当日からリハビリを開始する病院もあります。術式にもよりますが、入院期間は1週間~10日で、退院時には日常生活がおくれるくらいには回復します。日常生活に支障がない股関節の動作ができるようになるまでにはさらに3週間ほどのリハビリが必要です。手術前に筋力が落ちていると回復までに時間がかかる場合があります。
また、退院して自宅に戻ってからも、注意しなければいけないことがあります。正座や胡坐など、「してはいけない」動作があるため、医師や、理学療法士のアドバイスに従って、日常の行動にも気をつけましょう。また、ストレッチや体操などの運動を定期的に行うことが大切です。定期的な運動は体力の維持だけでなく、股関節の機能維持にも役立ちます。
お仕事をしている方はいつから仕事に復帰するか悩む方も多いかもしれませんが、ご自身のお仕事内容、術式、術後の経過により変わりますので、主治医とよく相談しましょう。術後の経過にもよりますが、傷口が小さい術式であれば、退院後比較的早い時期に仕事復帰も可能です。
股関節の違和感や痛みを感じたら早めの受診を
股関節は立ったり座ったりや、歩いたり走ったりという、毎日何となくしている動作を支える大きな関節のひとつです。
大したことはないと放置しておくと、症状は徐々に悪化し、歩けなくなるなど日常生活もままならなくなる可能性もあります。
何らかの動作をした時に、股関節に違和感や痛みを感じたら、早めに専門医を受診しましょう。
整形外科は診察する範囲の幅が広いため、股関節を専門に診察できる医師のもとで診察を受けるのがおすすめです。
股関節のことでお悩みなら、信頼のおける専門医へ
股関節の疾患は症状が進行すると、立つ・座る・歩くといった日常的な動作に支障が出て、QOL(生活の質)が低下します。
痛みに悩まされない快適な生活を送るためには、痛みを放置せず、信頼できる専門医のもとで適切な治療を受けることが大切です。