変形性膝関節症とは
変形性膝関節症とは、関節のクッションである膝関節の軟骨がすり減り、膝の痛みが生じる病気です。
厚生労働省の調査では、日本国内の変形性膝関節症患者数のうち、自覚症状のある患者数は約1,000万人、潜在的な患者数に至っては約3,000万人と推定しています(※1)。
高齢化の中、患者数は年々増加しています。罹患率は高齢者になるほど高くなり、男女比では1:4で女性に多くみられます(※2)。
(※1)参考:介護予防の推進に向けた運動器疾患対策について報告書
(※2)参考:公益社団法人日本整形外科学会「変形性膝関節症」
変形性膝関節症の原因とは
変形性膝関節症の直接的な原因は膝関節の軟骨がすり減ることにありますが、軟骨がすり減る原因はそれぞれです。
代表的な原因は老化・加齢です。
膝関節の軟骨が老化・加齢によって弾力を失います。その状態で膝関節を動かすことで軟骨がすり減り、動作時に痛みが伴うようになります。
そのほかの原因として考えられるのは、肥満、筋肉の衰え、膝関節の損傷が挙げられます。
また、前述した女性に罹患者が多い理由は2つあります。
女性ホルモンの影響
軟骨の形成には女性ホルモンの「エストロゲン」が必要とされています。女性は閉経するとエストロゲンの分泌量が減少し、これによって変形性膝関節症になりやすくなると考えられます。
筋肉量
女性は男性と比較すると筋肉量が少ないため、より軟骨に負担がかかりやすいといえるでしょう。そのため男性よりも女性に罹患者が多いと考えられます。
変形性膝関節症の症状とは
変形性膝関節症の症状は初期、中期、末期で異なります。
初期
- 立ち上がりや歩き始めなど動作の開始時に痛みがある
- 膝に違和感がある
中期
- 階段の昇り降りが困難になる
- 正座やあぐらの姿勢がとれない
- 膝を深く曲げられない
- O脚に変形している
- 膝に水がたまる
末期
- 安静にしていても痛みがある
- 脚の変形が目立つ
- 膝が伸びず歩行が困難になる
日常生活上で支障をきたすようになると、変形性膝関節症が進行している可能性が高くなるといえるでしょう。
変形性膝関節症の治療方法
変形性膝関節症の治療には、手術以外の方法(保存療法)と手術による治療(手術療法)の2つが考えられます。
保存療法には運動療法と薬物療法があります。
保存療法① 運動療法
変形性膝関節症が進行すると、痛みで足を動かさなくなったり、かばって力を加えなくなったりします。
そのため膝周辺の筋力が低下し、膝関節が不安定になります。
この悪循環を解消するためにも膝周辺の筋肉を鍛え、膝の負担を軽減する運動療法が大切です。
運動はストレッチやスクワットが有効といわれています。
保存療法② 薬物療法(ヒアルロン酸注射)
膝関節の中にヒアルロン酸を注入する「ヒアルロン酸注射」も薬物療法の1つです。
軟骨の保護や膝関節の潤滑作用、炎症の抑制に効果があるといわれています。
もともと関節の中にはヒアルロン酸を含む関節液が存在しています。
ヒアルロン酸を注入することで、膝関節の滑らかな動きをサポートします。
その作用から膝関節の痛みの緩和が期待できます。
保存療法③ 再生療法(PRP療法)
PRP(Platelet Rich Plasma)は多血小板血漿と訳され、自己治癒力をサポートする再生医療の1つです。
現在はスポーツ医学や美容外科で多く取り入れられています。
PRPに含まれる血小板には、傷ついた組織を修復する機能を持つ成長因子が多く含まれています。
この血小板に含まれる成長因子が放出されることで、膝関節の組織修復と抗炎症効果による疼痛軽減が期待できると考えられています(※3)
(※3)参考:変形性膝関節症に対する新しい治療 “PRP 療法 ” について
手術療法
変形性膝関節症の代表的な手術療法は以下の2つです。
①高位脛骨骨切り術
②人工膝関節置換術
症状によってどの療法が良いかは異なりますので、専門医の診察を受けることをおすすめします。
変形性膝関節症で手術が必要になることはあるか
変形性膝関節症は進行性の病気ですので、症状の悪化にともない手術が必要になるケースもあります。
まずは保存療法が重要になりますが、保存療法を行っても膝関節の痛みが軽減しない場合や症状の改善が困難な場合には手術を検討すべきでしょう。
変形性膝関節症の手術のメリットとデメリット
変形性膝関節症の手術療法には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
変形性膝関節症の手術のメリット
変形性膝関節症の手術のメリットは以下のことが考えられます。
- 痛みが大きく軽減される
- 痛みの根本原因を改善できる
- 姿勢が良くなる
- 歩行能力の改善される
- 他の部位や関節への負担が軽減される
変形性膝関節症の手術のデメリット
変形性膝関節症の手術のデメリットは以下のことが考えられます。
- 術後感染症を起こすリスクがある
- 入院に2~4週間の期間が必要
- 術後のリハビリが必要
- 日常生活への復帰まで時間がかかる
- 日常生活の動作で一定の制限がある
変形性膝関節症の手術の術式にはどのようなものがあるか
変形性膝関節症の代表的な術式は以下の2つです。
①高位脛骨骨切り術
②人工膝関節置換術
人工膝関節置換術とは、変形性膝関節症で変形した膝関節の表面を取り除いて、人工関節に置き換える手術です。
変形の程度が軽度の場合は、人工膝関節単顆置換術の適応が可能であり、変形している片側の骨の部分だけを削って置き換えます。
ですが変形の程度が重度の場合や障害が著しい場合には、人工膝関節全置換術の適応になるため、損傷している膝関節全体の骨の部分を全部取り除いて、人工関節に置き換えます。
人工膝関節置換術は下記の2つの術式に分かれます。
人工膝関節単顆(部分)置換術
膝関節の変形の程度が軽度の場合は部分的な置換を行います。
単顆置換術/部分置換術は全置換術と比べて術後の回復が早く、違和感が少ないというメリットもあります。
人工膝関節全置換術
膝関節の変形の程度が重度の場合や膝関節全体が痛んでいる場合は全置換術を行います。
変形が軽度の場合と進んでいる場合とでは手術の方法や使用する人工関節のパーツも違い、損傷した骨や軟骨を取り除き、人工関節を入れることによって、膝関節が滑らかに動くように調整します。
変形性膝関節症の手術を受けた場合の入院期間について
変形性膝関節症の手術を受けた場合、個人差はありますが入院に2~4週間の期間が必要です。
手術後のリハビリ期間について
変形性膝関節症の手術後のリハビリ期間は、入院期間の目安である2~4週間行います。入院同様、リハビリも手術後の状態によって個人差があります。
変形性膝関節症を手術した時の費用について
変形性膝関節症の手術の医療費は術式によって異なりますが、約25万〜200万円と考えられます。
術式 | 主代金例 | 費用例 |
高位脛骨骨切り術 | 約1,500,000円 | 3割負担:約450,000円 1割負担:約150,000円 |
人工関節置換術 | 約2,000,000円 | 3割負担:約600,000円 1割負担:約200,000円 |
また、保険内診療の自己負担額が定められた金額を上回る場合には、高額療養費制度が適応されます。高額療養費とは、同一月にかかった医療費の自己負担額が高額の場合、自己負担限度額を超えた分が払い戻される制度です(※4)。
(※4)参考:全国健康保険協会「高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)」
変形性膝関節症の診察を受けるなら、信頼のおける専門医へ
ちょっとした膝の違和感や、ふとした時に出る膝の痛みは、ついつい放置してしまいがちです。しかし、それらは変形性膝関節症からくるものかもしれません。
もしかしたら、と思ったら、専門医への受診をおすすめします。 整形外科はその医師によって専門分野が違い、膝を専門で診察する医師もいるのです。 幅広い治療方法の提案も専門医なら可能です。
専門医を受診することは、自分が抱えている痛みや違和感などの、悩みの解決につながります。
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この記事の監修医師