変形性股関節症とはどのような病気か
変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減ったことにより起こる、さまざまな症状のこと。
股関節は人間の体のなかで、最も大きな関節のひとつ。股関節は「大腿骨」という太ももの骨と、「骨盤」で構成されており、大腿骨の頭の部分(大腿骨頭)が股関節の寛骨臼にすっぽりはまった状態になっています。
いってみれば、大腿骨頭がボール、股関節側の寛骨臼がソケットのようなもの。ボールはソケットのなかを360度自由に動けるようになっているため、本来股関節は可動域が非常に広いのです。
ボールの表面と受け皿の内側は軟骨で覆われています。本来、この軟骨が股関節の動きを滑らかにし、動きを安定させているのですが、なんらかの原因でこの軟骨がすり減ると、軟骨の下にある骨が変形してしまいます。
そのため股関節に痛みが出たり、可動域が狭くなったりするのです。
変形性股関節症になると歩行するときに足が痛くなるため、「歩きたくない」→「脚の筋力が落ちて動けなくなる」→「ますます歩けなくなる」という悪循環に陥りやすくなります。
変形性股関節症の原因とは
変形性股関節症の原因は、主に3つあります。
加齢
長年の使用により、摩擦で軟骨がすり減ってしまいます。特に女性は男性に比べて筋肉量が少ないため、比較的多く発症し、好発年齢は40〜50歳といわれています。
肥満
股関節は、体の上半身と下半身を結ぶ重要な役割を担っている部位。そのため、体重が増えれば増えるほど、大きな負担がかかります。
遺伝
生まれつき股関節が脱臼しているなど、遺伝的な要因により変形性股関節症を発症する人もいます。
そのほか、股関節や膝に負担が大きな過重労働をしていたり、日常的に激しいスポーツをしていたりすることも変形性股関節症の発症要因になります。
変形性股関節症にかかったら現れる症状
変形性股関節症になると、主に次のような症状が現れます。
- 起き上がったり立ち上がったりするとき、脚の付け根が痛む
- 長い時間、立ったり歩いたりすることが困難になる
- 階段の昇り降りが難しくなる
- しゃがんだり、立ち上がったりすることが不自由になる
- 正座ができない
病気が進行すると、安静時にも脚の付け根が痛くなったり、夜眠っているときにも痛みを感じたりします。
さらに進むと、極度の痛みで脚の付け根が伸びなくなったり、左右の脚の長さが違ってきたりします。
変形性股関節症にかかるとどこがどのように痛むのか
変形性股関節症の痛みは、主に、次の場所に現れます。
- 股関節(脚の付け根)
- お尻
- 太ももの前側や横側
しかし、気をつけたいのは「人によって痛みが生じる場所が変わる」ということです。
なかには膝に痛みが出る人もいて、「レントゲンやMRIなど徹底的に膝を検査しても、何も異常が見つからず、原因不明とあきらめていたけれど、詳しく調べてみたら、実は股関節に原因があった」ということも少なくありません。
変形性股関節症にかかった場合の治療方法
変形性股関節症の治療法は、初期と進行期・末期で変わります。
初期
この時期は、保存治療が基本となり、手術など外科的な治療を行わずに、運動療法を取り入れたり、生活習慣を改善したりしながら股関節の状態を観察します。
運動療法
股関節周辺の筋肉をトレーニングして鍛えることで、関節への負担を軽減します。
ただし、負荷が高すぎるトレーニングはかえって股関節を痛めてしまうので、理学療法士やトレーナーなどの指示に従って行うことが大切です。
生活習慣の改善
肥満の場合にはダイエットが必須。通常、体重が1kg増えると、歩くときの股関節への負担は3~4㎏になるといわれています。
適切な食事量などを守り、適正体重までダイエットするようにしましょう。
また、股関節に負担の大きなスポーツや労働は症状を進行させます。そうした動作もできれば避けるようにしましょう。
生活様式の見直し
畳に座ったり、和式のトイレを使ったり、布団で寝たりする“日本式”の生活様式は、股関節に負担をかけるもとに。
イスに座る、洋式のトイレを使う、ベッドで寝るなど、できれば“洋式”の生活に切り替えましょう。
このほか、痛みがある場合には症状に応じて消炎鎮痛剤などの薬物療法も行います。痛みを我慢していると、股関節をカバーしようとして膝や腰など他の関節に大きな負担がかかったり、運動量が減ってますます体重が増えたりします。
痛みがある場合は我慢せず整形外科を受診して、内服薬や湿布薬などを処方してもらうようにしましょう。
進行期・末期
「保存療法では痛みがコントロールできない」「歩行がますます困難になってしまった」という場合には、手術を中心とした外科的処置が行われます。
末期の状態を放置していると痛みが慢性化して、何もしていなくても激しい痛みに襲われるなど、QOLが大きく低下してしまいます。
そのため、できるだけ早く整形外科を受診して、適切な治療を行いましょう。
変形性股関節症で人工股関節置換術を受ける場合の術式とは
変形性股関節症の手術は、大きく分けて2つの方法があります。
それぞれ適用となるケースが異なるため、自分の症状や年齢、ライフスタイルなどに合わせて適切に選択することが大切です。
寛骨臼回転骨切り術
股関節の骨の一部を切り取って関節の構造を変化させることで、症状の改善を目指す手術のことを、寛骨臼回転骨切り術といいます。
骨盤の骨を切る方法は症例によって異なりますが、多くの場合、寛骨臼の骨をドーム状に切ってスライドさせ、大腿骨頭を正常におおうようにして臼蓋を形成する手術が行われます。これにより、関節の荷重面が増え、負担を軽減します。
自分の股関節を温存することができるので、20~30代など、比較的年齢が若い人が対象になり、また関節の軟骨が残っている場合に行われます。
人工股関節置換術
股関節の損傷している部分を、人工の股関節に置き替える手術を人工股関節置換術といいます。
人工股関節は金属製のカップ、骨頭ボール、ステムで構成されていて、カップの内側に軟骨の代わりをするライナーをはめこみます。
つまり、骨頭ボールがライナーにすっぽりはまることで、滑らかな股関節の動きを再現することができるのです。
主に、レントゲン上で変形がかなり進んでいることが確認でき、減量を目的とした生活指導や、筋力を高める運動療法を行ってもあまり効果がみられない場合が適用になります。
以前に比べて、人工股関節の寿命が伸び、また、術式が非常に進化して低侵襲の手術が可能になったことから、現在では人工股関節置換術が主流となっています。
変形性股関節症の手術をする場合の入院期間
寛骨臼回転骨切り術と人工股関節置換術によっても、入院期間は異なります。
一般的に人工股関節置換術の方が、入院期間が短くて済み、1〜3週間で退院することができます。
一方、寛骨臼回転骨切り術の場合には入院期間が長くなり、1〜2か月は必要になります。
いずれの場合も、退院の目安は杖を使って階段の昇り降りができること。
また、病院の外を自力で歩けるようになったら退院が許可されます。
変形性股関節症の術後のリハビリ期間
リハビリ期間の長さも、寛骨臼回転骨切り術と人工股関節置換術によって異なります。
人工股関節置換術の場合は1〜3か月くらいで社会復帰できますが、寛骨臼回転骨切り術の場合はもっと長くなり、社会復帰まで3〜6か月くらいかかるとされています。
そのため、比較的年齢の若い人でもスムーズな社会復帰を期待して、人工股関節置換術を選択するケースも少なくありません。
しかしどちらの術式でも、社会復帰をしたあとも運動療法は必要になります。
股関節周辺の筋力を鍛えるトレーニングや、筋肉の柔軟性を養うストレッチなどは習慣化して行いましょう。
変形性股関節症の術後、注意すべきことやしてはいけないこと
寛骨臼回転骨切り術でも、人工股関節置換術でも、術後の動きの制限がある場合もありますが、
痛みや違和感のために日常生活で生じていた不具合から解放され、以前よりも自由に動けるようになります。
スポーツや登山など、趣味に復帰することもできます。
ただし、人工股関節置換術の場合に気をつけたいのは、股関節の脱臼。
人工股関節が脱臼をすると、場合によっては再手術が必要になることもあります。
柔道、相撲、サッカー、アメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツは避けるとともに、股関節に負担の少ない生活を心がけましょう。
また、横座りしたり股関節を捻りすぎる姿勢も股関節の脱臼を招いてしまうため、できるだけ避けるようにしましょう。
それから転倒に気をつけるとともに、筋力を養うためにストレッチや筋力トレーニングを継続しましょう。
変形性股関節症の手術の費用について
通常、両脚ともに人工股関節置換術を受けると、両脚手術では250~300万円、片脚では150~200万円程度の費用がかかることになります。
しかし人工股関節置換術は、医療保険などの軽減制度を活用することができます。
そのため、年齢や収入によっても異なりますが、高額療養費制度を利用すれば、上限額を超えた分の金額が払い戻されます。
上限額は、健康保険の加入者の年齢や所得水準によって異なります(*1)
(ただし、これには入院時の食費や差額ベッド代などは含まれません)
たとえば、70歳以上で年収が370万円以下で所得が一般的である場合、治療にかかった費用がひと月あたり60万円であれば、自己負担金は57,600円となります。つまり542,400円が払い戻されることになります。しかし、術後すぐに仕事復帰できないことを考えると、症状がない方でも日頃から適度な運動を行うことが大切です。また、異常を感じた場合は早期発見できるよう、早めに専門外来を受診しましょう。
参考サイト
*1 厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
*1 全国健康保険協会「高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)」
変形性股関節症の治療なら専門医がおすすめ
年齢を重ねるにつれて、多くの女性が悩むことでも知られる変形性股関節症。
最初のうちはほんの少しの違和感やちょっとした一時的な痛みでも、症状が進むと痛くて歩くのもままならなくなってしまいます。
股関節に何らかの違和感や痛みがある時には、ぜひ股関節を専門に診察している医師の受診をおすすめします。
整形外科は領域が広く、医師によって専門分野が違っているのも特徴の1つであり、自分の診てほしいところを専門にしている医師であれば、詳細な診察を受けることが出来ます。
信頼のおける専門医へ、早めの受診をすることは、その後のQOL(生活の質)を良いものにしてくれます。
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この記事の監修医師