人工膝関節置換術とはどんな治療法か
人工膝関節置換術とは、名前の通り、変形した関節を人工膝関節に置き換える手術です。
すり減った軟骨および損傷した骨、半月板は取り除き、取り除いた部分に人工膝関節をはめ込みます。
変形した関節を取り除く際には皮膚を切開することになりますが、術後、スムーズに回復できるよう、なるべく切開の長さは短く、筋肉は切らないまたは最小限しか切らずに手術が行われます。(*1)
参考サイト
*1 一般社団法人日本人工関節学会「人工関節とは」
人工膝関節置換術はどのような病気の人が受ける治療か
加齢による軟骨の摩耗や怪我などによる半月板等の損傷で膝関節に痛みが出る「変形性膝関節症」は、進行すればするほど歩行に支障をきたします。
これまで通り歩くために、医師の指導のもと生活習慣を改善して、運動療法や薬物療法を取り入れることになりますが、改善されない場合や変形が進んで思うように歩けない場合、「人工膝関節置換術」または「膝骨切り術」の手術を受けることが望ましいとされています。(*2)
参考サイト
*2 公益社団法人 日本整形外科学会「変形性膝関節症」
人工膝関節置換術のメリットとデメリットは
人工膝関節置換術を受ければ、それだけで以前のように問題なく歩けるようになるかというとそうではありません。
術後のリハビリは必要ですし、手術を受けることによるメリット同様、合併症などのデメリットも存在します。
人工膝関節置換術のメリット
- 痛みを緩和できる
- きちんとリハビリすれば安定した歩行を取り戻すことができる
- 痛みがある膝をカバーしようとすることで、他の関節にかかっていた負担を軽減できる
- 変形性膝関節症によってO脚になっていた脚がまっすぐ伸びて姿勢がよくなる
人工膝関節置換術のデメリット
- 術後、傷から菌が入って感染症にかかることがある
- 術中および術後に血栓が作られることがある
- 人工関節が緩んだり摩耗したりする場合がある
- 深くしゃがんだときに膝蓋骨(ひざのお皿)が脱臼することがある
- 脱臼や転倒などの衝撃によって人工膝関節が破損することがある
また、痛みを感じることなくスムーズに歩けるようになれば、買い物や散歩も億劫でなくなることから、生活習慣病の予防やQOLの向上にもつながるといえます。
人工膝関節置換術の術式とは
人工膝関節置換術には、「全置換術」と「単顆(たんか)置換術/部分置換術」の2種類の術式が存在します。
全置換術は、膝関節全体を人工関節に置き換える手術で、単顆置換術/部分置換術は、膝関節の傷んでいる部分のみを人工関節に置き換える手術です。
単顆置換術に使われる人工関節は、全置換術に使われる人工関節の約半分であるため、皮膚の切開および骨の切除量が少なくて済むことや、そのぶん術後の回復も早いことが期待されます。
ただし注意点として、変形性膝関節症が進行してしまっている場合は全置換術しか適応されません。
また、以下の場合も単顆置換術は適応となりません。
単顆置換術の手術適応と認められないパターン
- O脚やX脚の程度が重い
- 関節リウマチである
- 重度の肥満である
- 膝の靭帯に異常がある
- 膝の内側・外側の両方に痛みがある
(*3)
すり減った軟骨および損傷した骨、半月板を取り除いた部分にはめ込む「人工膝関節」は、主に4つの部品によって構成されています。
- 大腿骨コンポーネント:大腿骨の関節面の役割を果たします
- 脛骨トレイ(脛骨コンポーネント):脛骨の関節面の役割を果たします
- ベアリング(インサート):膝軟骨の役割を果たします
- 膝蓋骨(しつがいこつ)コンポーネント:膝蓋骨、いわゆる「ひざのお皿」の役割を果たします
患部を切開して、膝関節全体または膝関節の傷んでいる部分を取り除くのですから、当然、麻酔が必要です。手術の際には、全身麻酔に加えて硬膜外腔(脊髄を覆っている硬膜の外側の空間)にカテーテルを挿入し、局所麻酔薬やオピオイド(鎮痛薬の一種)を持続投与する「硬膜外麻酔」も行います。
硬膜外麻酔を行うことによって術後の痛みが緩和されますが、血液をサラサラにする薬を飲んでいる人などは硬膜外麻酔が使用できません。その場合、他の鎮痛方法が適用されることになります。
参考サイト
*3 人工膝単顆片側置換術の術後成績について
人工膝関節置換術の手術を受けた場合の入院期間
人工膝関節置換術の手術を受けるために必要な入院日数は、膝の状態や病院の方針などによって異なります。
目安は3週間とされていますが、リハビリが順調である場合などは、それよりも早く退院できる可能性が高いでしょう。
術後のリハビリ期間について
人工膝関節置換術の術後のリハビリ開始のタイミングは、一般的には手術翌日以降となります。医師の術式により手術が午前中であった場合、手術当日の午後には許可されることがあります。
なぜなら、術後に膝関節を動かさないことが続くと膝関節が硬くなってしまい、可動域が狭くなってしまう可能性があるためです。
骨を切ったのにそんなに早く歩けるの? と驚くかもしれませんが、早い段階で離床することは、血栓症の予防のためにとても大切なのです。
そのため、手術翌朝には尿を排出するための管(バルーン)も抜き、水分補給などの点滴も翌日には終了となり、医師や看護師、理学療法士の指導のもと、歩行の練習を開始します。
病院でのリハビリを早期に終了できるかどうかは人によって異なりますが、基本的には、杖歩行に問題がなく、階段昇降もスムーズであれば、退院してOKとみなされるでしょう。
ただし、退院したらリハビリが終わりというわけではありません。
あくまでも、“病院でのリハビリ”が終了なのであって、自宅に帰ってからもリハビリを続けることは鉄則です。
そもそも、変形性膝関節症を患ったことがない健康な人であっても、近所の散歩をすることもない怠惰な生活を送っていては筋肉が衰えて気持ちよく歩くことができなくなります。
せっかくの手術を無駄にしないためにも、健康維持のための努力を続けることはとても大切です。
人工膝関節置換術の術後、してはいけないことについて
前述の通り、人工膝関節置換術の手術後は、血栓症予防のためにも、寝てばかりの生活を避けて適度に足腰を動かすことが不可欠です。
とはいえ、痛みを我慢して無理に歩くことは禁物です。
術後の痛みがコントロールされない状態が続くと、「術後疼痛症候群」となり、慢性的な痛みに悩まされることもあります。
そのため、硬膜外麻酔のほか、「関節周囲カクテル注射」「大腿神経、坐骨神経ブロック」や、オピオイドをはじめとする「先取り鎮痛」によって痛みをコントロールすることが大切です。(*4)
参考サイト
*4 人工関節手術における関節周囲カクテル注射による術後鎮痛
人工膝関節置換術の術後、痛みはすぐなくなるか
変形性膝関節症は、進行すればするほど痛みが増します。歩行は常に痛みを伴い、膝の痛みで夜間に目が覚めることもしばしばです。
浮腫もあり、膝を少し動かすだけでも痛みを感じます。
では、手術をすれば痛みがすぐに消えるかというとそうではありません。
手術後しばらくは、膝が腫れたり熱を持ったりしますが、手術から3~6か月経つころには痛みは大幅に軽減されています。
人工膝関節置換術の術後、仕事復帰はいつできるか
人工膝関節置換術の術後、仕事復帰できる時期は患者様の状態や病院の方針によって異なりますが、一般的に入院日数の目安は2~4週間であるため、在宅での仕事であれば、退院後すぐに復帰することも可能でしょう。
一方、オフィスへの出社が不可欠な場合、杖歩行や階段の昇降に問題がないとしても、体力的にもすぐに復帰することは難しいかもしれません。
とはいえ、完全に元通りになるまでの間、数か月休むとなると、金銭的にも心配だという人は多いでしょう。
なるべく短い期間で仕事復帰できるよう、慎重に病院を選びたいものです。
人工膝関節置換術の費用について
人工膝関節置換術にかかる費用の目安は、約200万円といわれています。このうち自己負担額は、70歳未満であれば3割負担なので60万円前後、現役並み所得者を除いた1割負担の75歳以上であっても約20万円となります。
ただし、医療機関や薬局窓口で支払った金額の総額がひと月の上限額を超えた場合、「高額療養費制度」を利用できるため、全額を負担しなくていい場合があります。
高額療養費制度を利用すれば、上限額を超えた分の金額が払い戻されます。上限額は、健康保険の加入者の年齢や所得水準によって異なります。(*5)
たとえば、69歳未満で年収が370万円以下である場合、治療にかかった費用が60万円であれば、60万円-57,600円の542,400円が払い戻されることになります。しかし、57,600円の自己負担も決して安価ではないうえ、術後すぐに仕事復帰できないことを考えると、日ごろからウォーキングやスクワットなどで膝の周囲の筋肉、特に太もも前側の大腿四頭筋を鍛えておくに越したことはありません。また、異常があった場合に早期発見できるよう、定期的にMRIなどの検査を受けることもおすすめです。(*6)
参考サイト
*5 厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
*5 全国健康保険協会「高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)」
*6 厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
人工膝関節の手術は熟練した専門医がおすすめ
現在の人工膝関節の手術は、傷口が小さく、体への負担も少ないものへと日々進歩していっています。
それでも、自分の体にメスを入れるという決断はとても勇気のいることです。痛みを取り除き、スムーズな歩行を再び手に入れるための手術には、熟練の専門医に託したいと考えるのは誰しも同じことでしょう。
人工膝関節の手術を検討しているなら、信頼のおける専門医を受診することをお勧めします。
-
この記事の監修医師